橘井堂 佐野
2014年6月10日

林隆三さんもまた、ご逝去
今年の1月だったか、俳優仲間と渋谷で食事をし、もう一軒…と、路地裏を歩いていたら、林隆三さんに呼び止められた。
隆三さんも、ほろ酔いで、ご機嫌だった。
「じゃ、また!!」と元気な声で、また渋谷の街に消えていらっしゃったが、まさか、あれが最後になるとは思わなかった。
隆三さんと共演させていただいた作品は多くはないが、毎年、年賀状もいただいていたし、京都で別の組ながら飲み屋で合流したこともあった。
ああ、あの夜はスゴかったなあ…。
中村勘三郎、林隆三、火野正平、吹越満、高岡早紀…もっといたっけな?それに松竹、東映でそれぞれ撮っていた組の監督やスタッフたちが入り交じって、ワイワイガヤガヤ…。
最後は言い合いの喧嘩になってしまったり…まるで、昭和の映画人たちのようでした。
あの日は珍しく僕も興奮してしまったなあ〜。
…そんな中、終始、にこやかに、おだやかにお酒を飲んでいたのが隆三さんでした。
大切なひとコマ。

隆三さんと共演させていただいたなかで印象に残っているのが、TBSの2時間ドラマ「赤サギちゃんに気をつけて」。
早坂曉さんの脚本、龍至政美さんの演出。
僕は結婚詐欺師で、相手役の室井滋さんはダマされているとあきらかになっているのに、それでも、信じようとする健気な(?)女性を演じていたっけ。
なにかとコンビになることが多かった室井さんだが、早坂さんの、シリアスでありながら軽妙で救いのあるシナリオや、龍至さんの丁寧な演出で、我々にとって、とても充実したドラマのなかの1本となった。
そんななか、隆三さんは厳しく僕を追いつめる刑事役。
二人でのやりとりが、とてもスリリングだったことを良く覚えている。

隆三さんは、ずっと宮澤賢治の朗読を続けていらっしゃたという。
ピアノの弾き語りも知られたところだ。
音楽と、朗読。
バンドをやっていて、小泉八雲の朗読も続けている僕にとって、俳優の生き方のまさに先達である。
それにしても、原田芳雄さん、地井武男さん、夏八木勲さん…そして林隆三さんと、俳優座の花の15期の方々が続けてお亡くなりになるのは、あまりにも寂しい。
蟹江敬三さん、長門裕之さん・・・お世話になった、亡くなられた先輩俳優たちの現場での佇まいが想い起こされる。
残された後輩にとっては、先輩たちの残してくださった仕事への姿勢を汚すことなく、現場へ挑むことが何よりものご供養になると信じたい。

林隆三さん、安らかにお眠り下さい。
ありがとうございました。

                      佐野史郎

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