橘井堂 佐野
2021年4月3日

田中邦衛さんのご冥福をお祈り申し上げます

田中邦衛さんが亡くなられた。
初めて共演させていただいたのは、黒木和雄監督「TOMORROW 明日」。 1987年の夏、郊外にあった、今はもうない、狛江スタジオの控え室だった。
飛行機が過ぎると、エンジン音がスタジオの中まで聞こえるので、撮影が中断してしまうほど質素な撮影スタジオだった。
「田中邦衛です、よろしくお願いします」と、まだ映画デビューしたばかりの僕の正面に立ち、とても丁寧に挨拶してくださった。
僕は、すっかり緊張してしまい、直立不動になったことをよく覚えている。
控室には、やはりデビュー間もない南果歩さんや、水島かおりさん、仙道敦子さん、黒田アーサーさんといった若手以外は、長門裕之さん、馬渕晴子さん、絵沢萌子さん、入江若葉さん、桃井かおりさん、なべおさみさんら大先輩がズラリ。
その中に田中邦衛さんもいらした。
映画の時代設定は終戦の年、昭和20年。
舞台は長崎、原爆投下される前日、一日の物語り。
僕と南果歩さんの結婚式のシーンの撮影のため、全員集合していたのだ。
クニさん・・・人懐っこい田中邦衛さんは、そう呼ばれて親しまれていたので、僕らも、いつしかそのようにお呼びするようになった。

その後共演する機会は、ほとんどなかったけれど、お会いすれば、いつもニコニコと話しかけてくださった。
最後にお会いしたのは、ドラマで横浜ロケをしている時だったかな?
プライベートでいらしたようで、この時も「おう、サノ〜、元気か!?」と微笑んで声かけてくださった。
田中邦衛さんといえば、僕らの世代にとっては東宝映画、加山雄三さん主演の若大将シリーズの青大将役でお馴染み。
ヒーローよりも悪役や、癖の強い俳優が好きなのは、もしかしたら、クニさんの影響かもしれない。
その後熱中した、「夕陽のガンマン」シリーズでも、クリント・イーストウッドよりもリー・ヴァン・クリーフが好きだったし。

先輩たちが次々と他界なさるのは、残された者には寂しく、また、先達の足元にも及ばないでいることを、歳を重ねる程に、嫌というほど思い知らされる。

いずれは、僕も、いなくなるわけだけれど、悔いなく生きなければ、先輩たちに対して恥ずかしい。
亡くなられても、そうして、いつも、観られていることを感じる。

田中邦衛さん、本当にありがとうございました。
心より、ご冥福をお祈りいたします。

photo

★劇中でも使用された、井上光晴原作、黒木和雄監督「明日」、結婚式後の集合写真。

橘井堂