橘井堂 佐野
2021年5月4日

TBS金曜ドラマ「リコカツ」降板のお知らせとお詫び
この度、腎臓機能障害にるよる体調不良により、約一ヶ月、入院治療せざるを得なくなり、放送中のTBS金曜ドラマ「リコカツ」 第三話を最後に降板させていただくこととなりました。 お楽しみいただいている視聴者のみなさま、また、日頃より応援してくださっているみなさまには、心よりお詫び申し上げます。 プロの俳優として、恥ずかしく、健康管理をできていなかったこと、心底、反省いたしております。

「リコカツ」には、植田博樹プロデューサーのお声がけで、久しぶりのTBS金曜ドラマに参加させていただけ、本当に楽しく、新鮮に撮影が続いておりました。
植田さんとは90年代のTBS金曜ドラマ「ずっとあなたが好きだった」からのお付き合い。
その後、数々の大ヒットドラマを生み出した貴島誠一郎プロデューサーの元、頭角を現していらっしゃいました。
当時は一番下のアシスタントディレクターでしたが、今や、TBSを支える大プロデューサー‼︎
そんな、実人生の推移とも重なり90年代の大ヒットコメディホームドラマ「ダブルキッチン」の遺伝子をそのまま受け継いだ作品とも思われ、だからこそ、お声がけいただけたのだと、身を引き締めて臨んでおりましたのに、途中降板は悔しく、残念でなりません。 私は60代に入り、政治家や官僚、社長や総理役など、陰湿な悪役が多い印象でしたが、今回の定年したばかりの大手広告代理店のナンパな男は、その反動もあったのか、古巣に帰ってきた喜びとも相まって、家庭を顧みない擁護しようもないダメ男ではありますが、実際のバブル経済期の空気を知る者として、その犠牲者の一面もちらつかせ、社会風刺を裏に秘めながら、どこか憎めなくもおりました。

リコカツを通して、昭和、平成と過ごしてきたなかで発見してきた世の中の、己の、悪しき部分を再構築するきっかけを問う作品でもありましたのに…。
ドラマさながら、「出直してこい!」と、厳しい判断がなされたものと、ドラマの神様の司令と、受け止めます。

ああ、それにしても愛しき家族でありました。
美土里、咲、楓、梓、紘一くん、正さん、薫さん、そして、咲の元カレの貴也くん、自衛隊員のみなさま、出版社のみなさま、連先生…出演者のみなさま、植田博樹プロデューサー、坪井敏雄監督、鈴木早苗監督はじめスタッフのみなさま、本当にありがとうございました! 
鈴木早苗さんが、ドラマ部長という役職ながら、久しぶりの現場復帰となったのも、やはり、90年代にアシスタントディレクターからプロデューサーとして研鑽を重ね、精進なさってきた経緯を、今一度、振り返り、原点に戻ったドラマ作りに挑戦したいとのお気持ちが強かったからのように、お見受けしておりました。
今では、ほとんどドラマでなくなってしまったリハーサルを、今回復活させたのも早苗さんだったそうですから‼︎ ここだけの話、実は、早苗さんは当初、決して優等生タイプのスタッフではなく、常に現場で不満を撒き散らしているような無頼でありましたが、まあ、これもTBSの社風なのでしょうか、何故かそう言う方々が時代に翻弄されることなく、その後、良い作品を生み出してきていらっしゃるような気もします。
「リコカツ」もまた、そうした気骨ある作品として、視聴者のみなさまはもちろんのこと、ドラマに関わるすべてのみなさまの幸せにつながるよう、心より願っております。

今回の「リコカツ」参加の喜びのもうひとつに、記録の金子洋子さんとご一緒させていただけたこともありました。
80年代終わり、TBSドラマからお声がけいただき始めた頃のある時、「はいすくーる落書きスペシャル」の陰湿な教師役に、洋子さんからの推薦があったのです。
彼女が林海象監督「夢みるように眠りたい」や、宮沢りえさんのデビュー映画「僕らの七日間戦争」に出演していた私を観て、ドラマに誘ってくださったのです。
その後「はいすくーる落書2」にも続投させていただいたことを考えると、彼女がいなければ、「先生のお気に入り」「東京エレベーターガール」と続いた後に誕生した、「ずっとあなたが好きだった」の冬彦もいなかったかもしれません。
「はいすくーる〜」の演出は吉田秋生さん。
「ダブルキッチン」でもがっつり組まさせていただきました。
共に幻想怪奇趣味で、その流れで「乱歩〜妖しき女たち〜」も実現したのです。
ちなみに、乱歩のプロデューサーは貴島誠一郎さん。貴島さんも乱歩好きで、だからこそ「誰にも言えない」などのフェティシュなドラマもできたのかもしれません。
Paraviで配信中の原作:ラヴクラフト、脚本:小中千昭、演出:那須田淳による「インスマスを覆う影」なんてマニアックなドラマが実現したのも、TBSに脈々と流れている、アングラ、サブカルの血のなせる技だったのでしょう。
思えば、円谷プロとの「ウルトラマン」、久世光彦さんの「悪魔のようなあいつ」など、おもいっきりアウトサイダーでありながら、王道でしたものね⁉︎ このTBSドラマの奇しき導きは、僕の人生の大きな分岐点となりました。
あらためて、感謝申し上げます。
それだけに、今回のことは、恩を仇で返すような形となってしまい、本当に、申し訳ございません‼︎

ところで、「リコカツ」四話からの水口武史役ですが、平田満さんがお引き受けくださることになりました。
本当に、ありがとうございます‼︎
連続ドラマの途中で、配役が変わることなど滅多にないことですし、急なお話に、さぞ、戸惑われていらっしゃることと思いますが、平田満さんに宿る武史像は、愚直で嘘がつけず、自分に正直なゆえに、結果、家族を傷つけてしまう…という、切ないお姿が目に浮かびます。 平田満さんには、深く深く、心より感謝申し上げるばかりです。 最後まで、何卒、よろしくお願いいたします。 体も回復し、世の中も落ち着きましたら、
二人の武史のお話を、どこかでさせていただけたら嬉しく存じます。

それにしても、急な発熱により発覚した腎臓機能障害。
この一年、緊迫したドラマが何本も続いておりましたし、ひと段落した後の、心の隙間があったのかもしれないと反省するばかりです。
ドラマの他に、乱歩のオーディオブック、リスンゴ「佐野史郎 怪奇幻想シリーズ」「鏡地獄」「芋虫」のレコーディングもありましたし、故郷、松江は美保の関での小泉八雲朗読のしらべ「転生」の公演も密度の濃いものでした。
神奈川近代文学館での乱歩の「押絵と旅する男」の朗読も、これまでに抱えていた、言葉を放つ時の、俳優として染みついてしまってきた悪しき癖からなんとか脱却したいとの一念で臨んでおりました。その足で飛んだ熊本復興映画祭での林海象監督「夢みるように眠りたい」上映での行定勲監督とのトークも充実した時間でした。
それで、ホッとしたわけでもないのでしょうけれど、帰京し、39°Cの発熱。
翌日、すぐにPCR検査を行ったのですが、陰性。
昨年緊急事態宣言より、毎日検温しておりましたが、常に平温でしたし、作品に入るごとに、イベントがあるごとに、検査を受け、熊本でも検査は陰性だったばかり。

発熱に驚き、コロナ陰性とわかったものの、植田プロデューサーに連絡し、紹介していただいたクリニックで治療していただく中で、腎臓機能障害が発覚したのでした。
もちろん、最後まで演じ切りたい気持ちを押さえることは、難しかったですが、この先、また撮影中に発熱し、現場を止め、倒れてしまっては、元も子もありません。ここはしっかりと治癒させるのも、長い目で見た時の俳優の仕事と、決断した次第です。

「リコカツ」のみならず、近々に撮影予定の作品も、降板せざるを得なくなり、各テレビ局、制作会社等の皆様には多大なるご迷惑をおかけすることとなってしまいました。大変、申し訳ございません‼︎
また、公開中の映画やコマーシャル等の作品に対しましても、ご迷惑をおかけすることがあるやとも存じます。
関係者のみなさまに対しては心よりお詫び申し上げます。
今後のお仕事に対しましては、ひとつひとつ、実現できるよう、日々、尽力し、体調回復に努めて参ります。

コロナ禍ゆえ、皆様におかれましても、色々とご不安なことが多いことと存じます。
どうか、お体にお気をつけて、お過ごし下さいますよう。

こちらも、体のメンテナンスをしっかりと行い、あせることなく、みなさまに、これ以上ご迷惑をおかけしないよう、体調を整え、この先、更なる精進をしてまいりたいと思います。

この度は、本当に、申し訳ございませんでした。

2021年5月4日
                 佐野史郎

橘井堂