橘井堂 佐野
2024年8月13日

JIS企画最終公演「コスモス 山のあなたの空遠く」を終えて

竹内銃一郎 作・演出「コスモス 山のあなたの空遠く」、20年ぶりにして最終公演、無事に千穐楽を迎えることができました。
稽古場からの、このひと月半、とても充実した時間となりました。
竹内さんは、もう、芝居はやらない・・・と、おっしゃっていたけれど、まあ、それは、自分から手を挙げてということはない・・・という意味で、お誘いがあれば、わかりませんよね。
新たに戯曲を書く・・・ということはないとしても、素晴らしい戯曲は何作もあるわけですから、これから、どのようにして後世に伝わっていくんだろう???

唐さんの戯曲はといえば、もしかしたら歌舞伎や能のように、立派な伝統芸の形として残り、伝わっていくんだろうか・・・?
もちろん、唐さんは、作品が残ることを望んでいたでしょう。
けれど、伝えるべきことは、教わるべきことは、戯曲に書かれていない、その向こう側にあるのではないか?・・・とも思ってしまうのです。

芝居を始めて50年、その時代、空気、世相の中だからこそ生まれた戯曲は、やはり、その時代と格闘している役者たちがいてこそ、どのような形であれ成立するんだろうな・・・とは、今回の芝居を通して、深く思わされたことでありました。
竹内さんは76歳、短い期間に換えがたい友となった友人役の佃典彦さんは60歳、まるで夫婦のような従妹役の広岡由里子さんもまもなく還暦とのことですし、佐野は69歳・・・僕が芝居を始めた頃に、70歳のおじいさんがやる芝居なんて、退屈なもの・・・と思っていたけれど、もちろん、体力や記憶力は衰えていくだろうけど、ものづくりへの情熱に、年齢は関係ないと、若い頃の自分に、声を大にして言ってやりたいです。

他の共演者たちは、若き俳優たち。
広岡さんの、演劇を続ける娘役の土本燈子さんも、その相棒役の北澤響さんも、僕が演じる時計修理屋の主人は、25年前、小学生の女の子と逃避行をしたという設定で、大人になって再会した女性は、なので37歳くらいのはずなんですが、それを演じるWキャストの佐々木春香さんも北村優衣さんも、みなさん24〜5歳。
まあ、映画やドラマじゃないし、違う年齢を演じても、言葉で、そうだと発し、そう受け止めれば、違和感はありません。僕も、まだ50代の設定でしたし^^”
若い世代との芝居づくりは、当初、大いなる戸惑いもありましたが、それはお互い様。
この時代に生きている俳優たちの身体や物事の捉え方は、そのまま演技に反映されてしまうでしょうし、それも含めて、丸ごと受け止めなければ・・・と、強く思わされました。

劇中劇で竹内さんの80年代の作品、「東京物語」が取り上げられているのですが、これは、獄中の革命家の物語。
台本をもらって、過日、東アジア反日武装戦線のメンバーだった桐島聡が自首し、その後、ガンで死亡したことが頭をよぎり、時計屋が舞台ゆえ、「ハラハラ時計」が思い浮かび、さまざまな符号から、時計屋が革命家の拠点のひとつなのではないか?と疑いました。ネットではデータが残りますが、時計修理の時計を介して全国の革命分子たちとコンタクトをとっていたのではないか?と。
そうして読み解いていくと、表面上の物語の裏に隠された台詞のやり取りが、実に腑に落ちるのでした。
けれど、観客には、そのような物語や、登場人物の本当の気持ちがどうなのかは、一切説明されないのでわかりません。
わかることだけが伝わることではない・・・こういうと、また、誤解されてしまいそうですが、唐さんが言ってた「そんなことしてたらわかられちゃうぞ」の言葉も忘れられません。
説明をするな・・・ということなのかもしれません。

竹内さんには、今回、そのような背景のことは語りませんでした。話しても、「全然違う、そんなつもりで書いていない」と言われてしまうでしょうし、芝居が成立すれば、その手法はそれぞれで良いのだと思います。
そのズレが、芝居の楽しみでもあるのかもしれませんしね。
けれど、なぜ、革命家が逮捕され、ガンで亡くなったタイミングに、この芝居が上演されたのか・・・
誰にもわからないことなのかもしれません。
ちなみに、舞台セットの、修理を待っている時計たちなのかどうなのか、止まったままの正面の大時計の時間は12時45分、1974年の三菱重工ビル爆破事件が行われた時間。
時計修理の作業部屋に置かれた柱時計は、8時23分・・・正確な時間は20分過ぎ・・・くらいで、わかりませんが、地下鉄サリン事件が起きた時間。
竹内さんには、その意味は言わなかったですが、了承の上、スタッフの皆さんには、その旨を伝えて作っていただきました。

なので、ガンで亡くなる友人、シンゴが娘に託したノートには、舞台上では1行しか語られることのなかった、そして観客が目にすることのなかった、その経緯が、実際に綴られています。
亡くなる直前に届いた手紙の内容も、また、然りです。

ああ、状況劇場時代、もっともっと芝居の背景を勉強し、かつ、そのことを一切表さずに、ただただ、劇空間を生きるのに、もっともっと懸命であったなら・・・唐さんや李礼仙さんに、申し訳ない気持ちも湧きますが、今頃言われる方が、もっと失礼なのかもしれません。
・・・あの、大いなる学舎に、ただただ、感謝、あるのみ。

70年代の革命の実際の事件や、小劇場、アングラ演劇と言われていた芝居たちが、好むと好まざると向き合うこととなった、戦後、いや、近現代辿ってきたこの国のさまざまな歪みとなって立ち現れた、あの劇場やテントの空気が、すっかり変わってしまった下北沢の中で、まるで亡霊のように浮かび上がる小劇場の聖地、スズナリで行われたことは、芝居のラストシーンのセリフとも重なって、個人的にも深く深く、受け止めるしかありませんでした。
亡くなった者と、ガッチリ抱き合う相手は、劇中では友人ですが、その向こうにいた恩師の姿も、はっきりと見えておりました。
時計屋の常連客がなくなるエピソードが語られいていましたが、登場することのない、その常連客を演じていたのも、もしかしたらその恩師だったのかもしれません。
渋谷の小劇場ジァンジァンでの初舞台、状況劇場の紅テント・・・あの時代のことが襲ってきて、現在と重なり、千穐楽のカーテンコールでは、少しばかり目頭が熱くなってしまいました。
ラストシーンは、ナットキングコールの「スマイル」。
JIS企画第一回公演「月ノ光」も、最後に月が現れ、同じく、インストの「スマイル」が流れておりました。
さらには、僕が初めて観た状況劇場「唐版・風の又三郎」のオープニングも、チャップリンの「モダン・タイムズ」の「スマイル」だったので、想いを込めて音響さんに、これまた、こっそりリクエスト^^"

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★下北沢ザ・スズナリは、1981年柿落とし、当時26歳、状況劇場に在籍中、山崎哲作・演出、転位/21「砂の女」を観たのが最初だったかな?竹内銃一郎さんの秘宝零番館は「伝染」を。


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★左上・異星人殲滅を依頼に来る、小学生時代に娘を誘拐した時計屋を訪ねる怪しい男は公安か?革命家か?
右上・あまりにもふざけた事ばかり言うのでキレる時計屋の主人。
左下・京都から境港の水木ロードへと逃避行した小学生だった女の子と、25年ぶりの再会。父の死を知らされるが、楽しい思い出話を通して、父を想う。
右下・これは場当たり稽古の時の写真なので、実際には、ラストシーンは机を挟んで帽子を被り、月を見上げておりました。


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★観客の皆さんには、細かい小道具は見づらいでしょうが、なるべくリアルに!!


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★カメラバッグ、カメラは自前。X-Pro2、レンズはf2.8/16~55mm、バッグは写真家の瀬尾浩司さんプロデュースのX用オリジナルバッグ。


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★セリフで語られるコブハクチョウの親子。観客の皆さんには見えないけど、実際に舞台では電源をオンにして広岡さんの娘役のユウキに見せています。


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★主人の腕時計には針がありません。時を超えた世界なのでしょうか?


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★娘を誘拐された父が綴ったノートは、死を前にして、大人になった娘を介し、その犯人であり友となった時計屋の主人に渡された。


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★死を前にして、思うように字を書くことさえままならなくなったシンゴから届いた手紙。


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★異星人と間違えられる、演劇少女、こだまはロリータ好みの主人を手玉にとり、金をせびろうとしていたのか?はたまた・・・?悪いやっちゃ、なので、2人で飲む、もしかしたら眠り薬が入っているのではないか?とも思ってしまうワインの瓶は、設定通り、鳥取のもの。これは、小道具さんのこだわり。


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★今回は出演していませんが、「月ノ光」からのJIS企画のメンバー、小日向文世さんもきてくださいました。嬉しいよ〜〜〜〜〜〜!!!!!!広岡由里子さんとオリジナルメンバー3人揃って^^


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★盟友、南果歩さん、内藤剛志さんもきてくださいました。観客も、今回、古くからの仲間がたくさん観に来てくださり、芝居の内容とリンクしてました。そう!!観客と一緒に芝居を作るので、毎日ニュアンスが違うのも楽しく。

橘井堂