AppleTV『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』 シーズン1、全10話観了。
2014年のレジェンダリー版『GODZILLA』(監督:ギャレス・エドワーズ)や、今春公開予定の『ゴジラvsコング 新たなる帝国』(監督:アダム・ウィンガード)など「モンスター・ヴァース」と云われる世界。
1954年、第一作『ゴジラ』(監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)は、現実に起きたアメリカによるビキニ環礁での水爆実験を機に、埋もれていた日本古代からの歴史を思い起こさせるべく現れた神獣とも思われましたが、アメリカ版では、ビキニ環礁にゴジラが出現したので水爆実験を兼ねて駆逐せんとしたと、情報改ざんされたように受け止めておりました。
日本書紀等、正史とされるものはその時その時の権力者に優位になるように編集されるものなのかもしれません。だとしたら、戦後80年が経とうとしている今も尚、このゴジラという龍蛇神の物語もまた、アメリカのヒロシマ、ナガサキへの原爆投下の正当性主張の歴史同様に、敗者に伝わる事実が歪められるのでしょうか?
…が‼
…わかりません。
南方から流れ着く龍蛇への信仰が、出雲大社〜杵築(きづき)の神事「神迎祭」として今も伝わるので、ゴジラと日本の神話世界とを重ねておりましたけれど、だとしたら大戸島の伝説、海底に潜む「ゴジラさま」が、環太平洋、南方の海、ビキニ環礁沖から流れ着いていたと考えてもおかしくありません。
また、2004年に公開された『ゴジラ FINAL WARS』(監督:北村龍平)あたりから、ゴジラ=ダゴン説を唱え、ゴジラをクトゥルフ神話の神のひとつとして捉えていたこともあり、2019年の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(監督:マイケル・ドハティ)などで、実際にクトゥルフ神話と重なるような世界が描かれていた時には「やはり」と思ったものでした。
そして、この『モナーク』においても。
クトゥルフ神話の生みの親、H・P・ラヴクラフト の「異次元の色彩」などの世界にも通じ、同時に、コナン・ドイルの小説「失われた世界」や、その世界をも引用した、1933年公開の映画『キングコング』(監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック)へのオマージュも感じられます。
そればかりか、実際に、イザナギとイザナミの、あの世とこの世を行き来する境〜黄泉比良坂(よもつひらさか)を示唆した出雲神話を感じさせるものもあり、日米を舞台とした『ゴジラ』『モナーク』は、クトゥルフ神話と出雲神話とが重なり、溶け合うようでした。
ビキニ環礁における水爆実験とゴジラの関係の描き方に対し、『GODZILLA』公開当初は「改ざんだ‼」とやりきれない想いも抱いていましたが、今はそうとも言えず、事実への想いを巡らせています。
そもそも、アメリカの水爆実験の事実はありますが、1953年のアメリカ映画『原始怪獣現る』(監督:ユージン・ルーリー)の、核実験で氷原より目覚めた古代恐竜が帰巣本能からなのかニューヨークを襲うという構造そのものを日本版ゴジラは踏襲しています。
コラム「『ゴジラ-1.0』を観て」にも綴ったので重複しますが、ゴジラの造型についても、コナン・ドイルの小説『失われた世界』に綴られている恐竜の描写「頭は鳥のようであり、胴体は太ったトカゲに似ている。長く引きずっている尻尾には上向きのトゲがくっついており、曲線をえがいた背中には、大きな鋸の歯のようなひだが刀のようにならび、ちょうど1ダースものニワトリのとさかをたがい違いにおいたようだった」と忠実です。
アメリカ版ゴジラの造型はオリジナルの日本のゴジラの造型とは違い、神獣というよりは恐竜に近いようですが、その造形を最新の日本版ゴジラが踏襲しているということは、アメリカ作品があるからこそ、日本のゴジラが姿を現すというこれまでの経緯にもまた忠実なのかもしれません。
原型と思しき日本版ゴジラは、今はアメリカのハンバーガーチェーン店「マクドナルド」(『ゴジラVSマクドナルド』 )や日本の飲料製品の代表的存在サントリーのコーヒー飲料「BOSS」(『GO YOUR WAY』 『CP・青き日の衝撃』 )の広告塔として日米対決を超えて活躍もしていますし、ミニチュアやスーツアクトによるゴジラ特撮映画の本編が、そう遠くない日に姿を現すであろうことを期待させます。
今はただ、「ゴジラはこうでなければならない、こうあるべきだ、これが真実なのだ!」と唱えることが、まるで、時の権力者によって描かれ、また、次に書き換えられてしまう正史と同じではないか…と案じられ、国や文化、宗教を超えて、核の落とし子でもあるゴジラや自然災害、古代も含め、戦争の犠牲者たちの無念を鎮めるためにも、争うのではなく、戦争のない自由な世界をと、せめて幻想怪奇、空想科学、神話の世界においては感じていたいと思うのです。
そして、そのことにより、現実の平和な世界への道に、例えわずかでも、つながることがあると信じたいのです。
それこそが、天岩戸のアメノウズメの命の神話の代より連なる芸能のあるべき姿なのではないかと自問して。
アメリカの向こうにある幻の髑髏島と、日本の向こうにある幻の大戸島の伝説が、日米のこれまでの暗黒の歴史を解き明かし、鎮めてくれることを願いつつ、『モナーク』のレガシー〜キングコングやゴジラの残してきたものの向こうに何があるのかを見届けたいと思うのでした。
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