◆ヴェネツィア
―――今回の極東映画祭のメインの仕事はなんだったの?
★サン・マルコ広場。
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佐野◆6日目の舞台挨拶と7、8日目の取材。地元は勿論だけど、ハンガリーのテレビ局や、フランス、イギリスの新聞の取材を受けました。だから、3日目に着いて一日だけヴェネツィアにちょっと行ってきたんだよね。
1986年にデビュー作「夢みるように眠りたい」で林海象監督やマキなんかとヴェネツィア映画祭に招待されて、華やかな映画の世界を知ったところから始まった映画人生だから、想い出深い場所だよね。当初、世界の映画祭に出ていくなんて思ってもみなかったし、しかも初めて行った海外旅行がいきなりVIP待遇で、プライヴェートなボートでリド島のホテルに横付けだったし、ああいうことはなかなかないよね。
―――でも、日本ではそれほど評価が浸透してなくて、そのあともアルバイトをしてたんだもんね。
佐野◆そうそう。(笑)
―――世界に行ったはずなのになー。(笑)
佐野◆最初は、映画に出れば、こうして世界の映画祭に招待されるんだ。ああ、いいなー。やっぱりテレビより映画の方がすごいなとか、本当に思ってたからね。(笑)
調子のいい佐野が、さらに絶好調!だったな。
―――ヴェネツィアの街は変わってなかったでしょ。
★想い出の地、ヴェネツィアで。
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佐野◆でも、携帯電話でメールや話しをしてる人が多いので、風景が違う街に見えるんだよ。あと、お土産物屋さんにエルメスとかのブランドショップが増えてた。それとディズニー・ショップがあったのがショックだったな……なんでヴェニスでディズニーなんだよぉ!!……と。
―――ユーロ・ディズニーはフランスなのに。
佐野◆何でだろうなー? あれは白けたな。SARSの影響か、日本人観光客はほとんどいなかった。
パウロとピザを食べてたら、老夫婦が隣に座ろうとしたんだけど、オレを見て「あっ」って向こうに席を替えたんだよね。「何?」ってパオロに訊いたら、「全然分ってないんだよね」って怒ってた。東洋人はみんなSARSみたいな。
―――マスクとかしてたら大変だね。
佐野◆石井監督が「なんか都合の悪い話になったら、あーって咳き込んで、マスクでもすりゃあいいんだろ」って言ったら、「冗談でも止めて下さい」ってスタッフに言われてた。(笑)相変わらず過激な監督です。
◆石井輝男監督
★開場で石井輝男監督とポスター。
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佐野◆石井監督とは「ゲンセンカン主人」「無頼平野」といっしょに仕事をし、そのあとちょっとご無沙汰してたんだよね。
久し振りにお会いできる機会だし、是非とも行きたいと思ってたんだ。
―――監督と一緒の便ではなかったんだ。
佐野◆石井監督が先に着いてたから、ウディネに着いてすぐに会場に向かいました。「史郎ちゃん、史郎ちゃん」って握手して、再会できて一安心。(笑)
―――石井輝男特集というのがまたすごいセレクションだよね。
佐野◆実はヨーロッパでそんなに有名なのかなーっ? って思ってたよ。なにしろTHE KING OF CULTという触れ込みで紹介されているぐらいだし。
映画祭で石井監督の「恐怖奇形人間」(HORROR OF THE MALFORMED MEN)を観たんだけど、めちゃくちゃウケてた。土方巽さんとか出てくると観客がドヨドヨするし、土方さん自体が暗黒舞踏の祖として、知ってる人の中では有名なんだね。
最後に近親相姦で花火と一緒に爆発して、握りあった手だけが映し出された日には、全員立ち上がって「オー」って大笑いしながら「ブラボー!」だよ。すごい光景見ちゃったな。(笑)
江戸川乱歩の「孤島の鬼」「パノラマ島綺談」をベースにして、そのほかの作品からもいろいろ取り入れている作品だよね。
―――日本ではヴィデオ化がお蔵入りになってるんだよね。久し振りの石井監督はどうでした。
佐野◆一週間近くいっしょにいて分ったことは、唐(十郎)さんもそうだけど、ボクらが思ってるほど論理立ててモノ作りのアプローチをしていないのかもしれないということだな。……いや、真に受けちゃいけないことは解ってるんだけど、そうはいっても何を象徴しているのかとか、何を意味しているのかとか読み解くでしょ。それがないんだよね。
―――天才型の人たちってそうなんじゃない。
佐野◆やっぱりそうなんだな。「全然難しいこと考えてないんだよ、史郎ちゃん。ちゃんと、教科書通りに、こうやってこうやって、と作るのが嫌なだけでね」って。コンテもなくて、カット割りも現場でないからね。
三池崇史監督もそうだけど、オレの好きな監督はだいたいそうだな。若松孝二監督もそう。カット台本は持ってない。
―――みんな頭の中に入ってるのかな?
佐野◆いや、撮るものが分ってるんで、その場その場で決定していくみたい。
―――佐野君が監督をした「カラオケ」ではどうだったの?
★取材を受ける石井輝男監督と佐野。
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佐野◆いや、かなりキチンと割りますよ、凡才は。(笑)もちろん現場で変えたりするけどね。でも、編集の時はかなり感覚的になるかな。
まあ、しかし、石井監督から渋谷実監督、衣笠貞之助監督の助監督時代の話しや、高倉健さんや鶴田浩二さんなど大御所達の撮影の裏話とかいろいろ聞くことができて楽しかったですよ。
―――石井監督とは7月12日にも「通販生活」のセミナーでつげ義春を語るんだね。
佐野◆そうそう、石井監督とオレの中にはつげ義春と江戸川乱歩という共通項があって、どういう風に好きなのかというのは近しいところがあるような気がするんだ。
―――帰りは一緒じゃなかったの?
佐野◆石井監督はそのまま「史郎ちゃん、ボクねユーレイル・パスっていうのを買ったから、これから一月ヨーロッパを一人旅しようかと思って」って。すごいんだよ、お元気で……もう80になろうっていうのに。(笑)「監督、いつも違う所へ行っちゃうし」とスタッフは心配してたけどね。
―――帰りも乗り継ぎ乗り継ぎで?
佐野◆ヴェネツィアからパリに出て、ソウルまで行き、そこから成田。でも、行きも帰りも爆睡してたから、今回はヨーロッパに行ったのに時差ボケ0でした。(笑)