ハートウォーミング佐野の監督日誌4
1998/6/12
◆1998年5月13日
これが最後の諏訪ロケです。でも、9時45分出発だから、けっこうゆっくり出たね。少年(坪田翔太)と「唾くれ男」(玉袋筋太郎)の追っかけのシーンの撮り残しを撮りました。車輪があってペダルが漕がれていて、そのフレームの中に後ろから車輪がインしてくるというのは、映画を撮るんなら絶対撮りたいと思ってたシーンだったんだよね。これは20歳ぐらいから思ってる原風景だったから、今までも他の現場のスタッフに、どうすると撮れるか聞いたりしてたんだよね。
今日で玉袋さんはアップだったんだけど、充実した顔をしてたよね。うれしかったな。それから、諏訪湖畔で野口さんと伊藤(正之)氏の環境問題を語るシーンを撮りました。夜は同窓会の7人が外で歩くところの撮影なんだけど、全体を撮りたいしカットバックをやりたかったんで、けっこう苦労したね。26時とか27時までかかったね。この日はさすがにオレも夕飯の時にはバッタリ寝ちゃったもんね。だから「さわだ」にも「恵」にも行けず、ロビーでビールを飲んで寝ました。
◆1998年5月14日
黒田さんの母親役の野際(陽子)さん登場です。はじめて野際さんに演出したんだけど、段田さんともオレともTVドラマでのコンビが長いから息が分かっているので、助監督のサジェスチョンもあってカットを割らずにワンカットでいったりしました。この日の昼は「河内屋」に行って煮カツと焼き鳥、山菜の天麩羅を食べました。うまかった。
坪田くんも今日でアップ。坪田くんが現場ですごく可愛がられているので、彼を見放していた事務所の人がビックリして、「事務所としても、これからは力をいれていきます」って言ってたね。(笑)彼は積極的に何かをやろうとしないところがいいんだよね。だから誰もが使いたがるっていうわけにはいかないかもしれないけどね。
今日のシーンには玉袋さんも通るんだけど、影みたいになって横切るだけだから、ウチのチーフマネージャーの渡辺氏にシャツを着せて出演してもらいました。渡辺氏はいつもおいしいとこに来るんだよね。(笑)この日も26時くらいまでかかったかな。
◆1998年5月15日
諏訪ロケ最後の日です。
昨日プロデューサーの貴島さんに「役者さんに細かくダメ出しをしすぎる」「役者さんをいい気持ちにしてあげて、いいところをいただかないと」と忠告されたんだけど、それを意識するあまり、現場に入ったら昨日以上のダメ出しをしてしまいました。はっはっはっは。(笑)でも、ラッシュを観たらやっぱり読みきれていない役者さんにはコミュニケーションをとって説明をしないとダメだなと思った。
段田さんはすごく的確だし、黒田さんもどんどんよくなっていってラストの3カットは非常に満足したね。「戦争は知らない」を歌うところは、オレもジーンときたりした。この日は佐野の長セリフがあって、カットを割ると逃げているように思われるから、ワンカットで受けて立ったよ。(笑)カメラマンと助監督にまかせて、珍しく俳優部に徹したかな。
諏訪ロケ全部をアップしたときは、ちょっとウルウルきたね。エンディングロール用の湖の大俯瞰を撮るために高台に登って、「登美」に行ってビールを飲んで、蕎麦食って撮影部、演出部で軽い打ち上げをやりました。
しかし、ここまで晴れが続いたりするのははじめてだと、長い間映画をやってるスタッフの人たちみんなが言ってたね。「おかしい」とまで言われたぐらい。雨で半日つぶれたんだけど、雨上がりのいい風景が撮れたことも考えると120パーセントの天候に恵まれたね。最後に、天候に恵まれたお礼をしに諏訪大社の上舎に行ってから、東京に向かいました。
◆1998年5月16日
今日は緑山スタジオにカラオケ屋のセットを観に行きました。児玉写真館のセットは壁がバラせないとかいろいろあったんだけど、今回はそのへんが全て解消されて、廊下と壁がくっついたまま引き枠で動くようになってた。
それから日活の撮影所に移動してラッシュを観ました。マネージャーのキカワが二役で出ています。坪田くんが湖をバックに自転車で道を昇ってくるところで、エキストラが足りず急遽出演してもらった女子中学生役のキカワが映っています。(でも、制服が似合うとか評判良かったですよね。byキカワ)コスプレ・マニア必見ですね。野口さんとのからみのセリフは、キカワが右と左が分からないのをいただいて現場で考えたんだけど、映画のテーマとして鏡や映ったものや右とか左や裏とか表がわからないとかネガとポジというフイルムに対するオマージュの意味も隠されているんだよね。
よく観てると、カラオケ屋にどうやって行ったのか訳が分からなくなってるのに気がつくはずです。鏡に映った世界なんだよね、きっと。その点ではジャン・コクトーの『オルフェ』に通じるね。(笑)調子こいて言えば、オレはウルトビーズの役かな、わっはっはっはっは。
◆1998年5月17日
★「特命リサーチ200X」で共演している川平慈英さんの友達で、ミケランジェロ・アントニオー二の写真集を出した写真家の岸野さんが見学に来たので、急きょ頼んで撮ってもらった現場の写真。演出の指示を出す佐野。 | この日からまた緑山のスタジオです。カラオケ・ボックス撮影の初日ということもあって、最初は手探りで進めました。JIS企画で舞台をいっしょにやってる谷川昭一朗氏と燐光群で舞台がいっしょだった江口敦子さんに店長と店員さんをやってもらいました。カラオケでは中村晃子の「虹色の湖」を黒田(福美)さんが唄って、美保純ちゃんがいしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」を唄いました。クランク・インの前にリハーサルをやっていたし、事前に歌はとってあったので順調だったね。でも22時半までかかって、鶴川のダイアモンド・ホテルに泊まりました。
◆1998年5月18日
連日8時開始です。カラオケ・ボックスにベンガルが登場したところのギャグなんかは、現場で作ったものもあるよ。この日のメイン・イヴェントは野口五郎さんの唄う「マドモワゼル・ブルース」だね。ライティングも長田(達也)さん凝りまくりでしょう。美保純さんとの野口さんのラヴ・ストーリーは見物だね。そして島崎(俊郎)さんの唄う「恋の奴隷」、柴田(理恵)さんの弘田美枝子の「人形の家」だね。この日は23時ぐらいに終わったかな。
◆1998年5月19日
★写真家の岸野さんに撮ってもらった現場の写真。演出の指示を出す佐野。 |
今日は佐野がやっぱり筒美京平ナンバーでオックスの「ガールフレンド」を唄ったね。ほかにも西田佐知子の「くれないホテル」が出てきたり、京平ナンバーを意識したのは事実ですな。だのに段田氏が「スーダラ節」か。(笑)それから、野口さんの「長い髪の少女」。さて、この日は同窓会の全員が集まる最後の日。長回しが多くなったね。この日からクレーンを使って、カットを割らなくなったな。だからといってすんなりいくわけでもなく、けっこう時間がかかりました。
圧巻は、ザ・ピーナッツの「恋のフーガ」をみんなで唄うところだよね。それをワンカットでいこうというのが大変だったよ。「これ、ワンカットでいきたいな」ってポロっと言った途端に、全部署がガーっと動きだしたから「あちゃ」っと思ったんだけど、結局それで6時間かかりましたよ。ワンカット撮るだけだったんだけどね。全員で壁をはずしたり取付けたりしながらのクレーン撮影だったからね。制作部までマイク持ったりしてたよ。その後に、「戦争は知らない」の幻想シーンをやはりクレーンで撮ったから、朝4時半までかかったね。俳優部のみんなはほんとにカラオケ屋で朝まで明かしちゃったみたいだったって言ってた……。感無量!
◆1998年5月20日
さすがに最終日の今日は12時スタートになりました。助監督の佐々部(清)と瀧本(智行)が本当に良くやってくれて、ない時間をうまく捻出できたんだ。カラオケ店内のカット割りは助監督の力だね、はっきり言って……。演出意図をよく汲み取ってくれたチームでした。それでこの日は、カラオケ店内の細々したカットを撮影しました。ミラーボールとかのモノ撮りもあったから、全部終わって22時近くだったかな。みなさんにご挨拶して、花束をもらったり、前日アップしていた黒田さんや音楽の浦山(秀彦)&熊谷陽子の二人、それに真希もきてくれて、感動のラストを向かえたわけですよ。
翌日は廃人でした。(笑)
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