佐野ひとり芝居「マラカス」事始め
1998/10/26
★「マラカス―消尽―」チラシ |
10月27日からはじまるひとり芝居の「マラカス」ですが、最初は「ねんねこ」というタイトルだったんだよね、。
最初は唐さんの小説「フランケンシュタインの花嫁」をもとにした「ねんねこ」という話だったんだけど、唐さんが福田和子事件を福井にまで行って取材して、「すばる」に「マラカス―消尽―」として小説を発表したときに、これは戯曲にしたいなと思ったらしいんだね。でも、唐組の劇団員に聞くと、秋の公演にやるはずだったらしいんだ。(笑)オレが横取りしちゃったかたちだよ。だから、何人かは恨んでるだろうな。(笑)
ここにきて、林真須美容疑者の保険金詐欺事件が脚光をあびたから、またネタがでてきたからいいんじゃない?
そうだよね、みんな参入するだろうけど、是非やって欲しいよね。唐さんは小説を書くときに、絶対に芝居にならないようなものを書こうと思うんだって。でも、小説が出来上がると、この演劇に出来ないようなものをどうしたら舞台に出来るんだろうと思うらしいんだよね。反対に演劇作品として書いたものは、これをどうしたら小説に出来るんだろうって考えるみたい。
ひとり芝居の舞台って、ここにきてシリーズ化してるよね。
プロデューサーであるトム・プロジェクトの岡田潔さんが、役者として燐光群の芝居に出て九州を回ってるころに、ひとり芝居は儲かるぞと閃いたらしいんだよ。(笑)だから、片桐はいりさんなんか200ステージとか300ステージも演ってるらしいよ。
最初に決まってたのは唐さんの方?
そうそう。「冬彦」以降、唐さんに取材が行ったりしたから「ご迷惑をおかけしております」とお酒をもって挨拶に行ったり、唐さんの作品はずっと観てたこともあって、なんとなく話をするようになってたんだよね。そしたら「夢みるように眠りたい」とかすごく評価しててくれてたんだよ。佐野がこんな役をやるんだって、ずいぶんビックリしてたみたいだよ。そういうこともあって、唐さんが誰とやろうかと考えたときに、佐野になったみたい。
久し振りだし、相手が唐さんだからずいぶん緊張もしたんだろうけど、稽古がはじまってどう?
3分の2まではほとんど演技的なダメ出しはなしで順調にきてた。唐さんが思ってたことと全然違うこともしてるんだろうけど、それでも成立していれば先に進むしね。でも、さすがに最後に来て、解釈が違うんじゃないかと言われたね。状況劇場時代もそうだったんだけど、そこが誰も出来なくて、とにかく難しいんだよ。
そこはテンションの違いとかではなく、脚本の解釈の問題なんだ。
そうそう。人の捉え方。
このあいだ東京ドームで観た、高田×ヒクソン戦にたとえれば、あれを愛として捉えるか、対立として捉えるかの違いみたいなものを表現しなければならないからね。格闘することが、相対立することが愛になるなんて分からない人にとっては難解だからね。それは劇団時代にも難しい問題であって、対立はどっちが勝つかってことにどうしてもなっちゃうんだよね。でもそれは、どっちが勝つかじゃなくて、どう融合していったかとかの問題なんだよ。戦うということが溶けあうことなんだよ。その先には死しかないかもしれないけれども、溶けあったりするんだな。
戦うという行為は、一見壊しあっているように観えて、二人で創造したり、生成していくということでもあるものね。
相反するということと、いっしょに作るということが同じだということを解釈するのは難しいのさ。それを頭では分かっていても、芝居に立ちあげようとするとこれがまた難しい。普段は分かっているつもりでも、いざ舞台で向かってこられると、よけたり、攻め返したり、押し返したりしてしまうんだよね。
逆に今回は唐さんといっしょに融合して構築していかなければならないのに、実は戦いだったりするわけだものね。
一瞬も気が抜けないよね。攻め続けなければいけないんだよ。
でも、唐さんの作品みたいに、解釈が問題になるような作品はそんなにはないんだよ。だいたい表現されているものでいいと言われているものは、一生懸命やってる姿が美しいとか、「なるほど、そうなってるのか」と仕組みを納得するようなものが多いじゃない。でも、そうじゃないんだよ。
唐さんと相対峙していたら大変だろうね。
こんなにがむしゃらにやってるのは、シェイクスピア・シアターの旗揚げ、状況劇場に入った時、「夢みるように眠りたい」での映画デビュー、冬彦に続いて5つ目やってきたターニング・ポイントのような気がするな。全部誰かと組んで何かを作ってるんだよね。
状況劇場時代も唐さんの演出だったわけだけど、演出の仕方って違ってる?。
違うよね。状況時代に戻ることもあるけど、新しい関係が生まれてる。それは、とっても嬉しいよ。でも難しいよね。それはさっきの愛と戦いがいっしょだという話じゃないけど、いい人だとか悪い人だとかいうところじゃない愛の話だよね。どっちが勝ったとか負けたに帰着するようではいかんよね。
いろいろな指示があるんだろうけれども、分からないことも出てくるでしょ。
分からないからといって、「教えてください」じゃないよね。何で分からないんだろうということを考えて、考えて(まあ、頭が悪いんだろうな)、そしたら何か突破口が見えてくるよ。「教えてください」じゃ、自分のものにはならないさ。
オレが映像の仕事をやってきて手に入れた演技の方法というか、状況の舞台ではしなかった黙って一人で舞台にずっと立ってるような芝居をしたときには、やっぱり緊張したね。こんなことをやって、唐さんは怒るんじゃないかなとか思ったし、普通の声で喋るTVでやるようなリアリズムを演ったりしたときも、怖かったな。(笑)
なんか、試金石のようだね。やっぱり勝負だね。
そうだよ。
今回の話は、四国の松山で嫉妬と愛の果てにナンバーワン・ホステスを殺害して、整形までして逃走し、15年も逃げ延びて、時効まであと何日というところで捕まった福田和子の物語だよね。
懸賞金がついたから捕まったようなものだけれど、その懸賞金を受け取った福井のおでん屋のママさんと常連客に、そのお金を何に使ったかということをリサーチに行く人間がオレなんだよ。それで、調べていくうちに、いろんなことが分かってくるんだよ。「マラカス」というのは、福田和子の指紋をマラカスを握らせて、そこから採ったからなんだな。後は、観てのお楽しみだね。
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