★「秋刀魚の味」で中村トオルさんと。
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1月3日放送、フジテレビの新春ドラマスペシャル、「秋刀魚の味」の収録中です。
S27年、松竹の作品、名匠、小津安二郎監督の遺作のリメイク。
僕の役は、映画では佐田啓二さんが演じられたサラリーマンの息子の役。
身がひきしまります。
相手役は余貴美子さん。
まるで、小津監督がそこにいるかのように、ピンと張り詰めた緊張感のなかで撮影が進められて行きます。
おそらく、小津さんと野田高梧さんのシナリオが「無駄な演技をするな!!」と詰め寄っているのでしょう。
今から18年ほど前、僕は唐十郎さんのところの劇団状況劇場を飛び出しました。
それまでに赤テントで荒事をやりながらも、どうしてもちゃんと唐サンの演出に応えることができず、「もう役者はやめよう」とまで思っていたのです。
そんな時、何故か静寂と沈黙と間を大切にしている、古き良き日本映画に興味が湧いてきたのです。
そう、それは藁をも掴む心境だったのでしょう。
俳優として、生きていくには……と、手がかりを模索していたのです。
その時、築地の松竹セントラルで、小津作品がニュープリントで一挙公開され、僕はマキと連れ立って、通い詰めました。
今はなき、銀座の名画座「並木座」にも通いました。
アパートに帰っては、二人してその言い回しを真似していたものでした。
その直後、林海象監督と出会い、モノクロ、サイレント映画「夢みるように眠りたい」で銀幕デビューすることとなりました。
日本映画そのものに対するオマージュ作品でした。
林監督にしても、僕にしても、表現の突破口を映画に求めていたのでした。
見知らぬ我等は、小津監督が引き合わせてくれたようなものでした。
その後、黒木和男監督の「明日」に出演させていただきましたが、それは、劇中、小津監督の「父ありき」が挿入されるほど、小津作品への愛情に満ちたものでした。
僕は戦時中の新婚夫婦を南果歩さんと演じさせていただきました。
しかも、やはり今はなき、松竹大船撮影所でです。
小津作品が撮影されていたスタジオで、僕等はうちふるえながらカメラの前に立っていました。
その後、山崎哲さんや竹内銃一郎さんの演出を舞台で受けている時も、小津演出が踏襲されていて、まさに、僕にとって小津監督は永遠にお会いすることの出来ない演技の先生なのです。
竹内作品では「東京大仏心中」という、小津映画をモチーフにした舞台にも立たせていただきました。
鎌倉に寄った時には、今でも、円覚寺に立ち寄り、「無」と記された小津監督の墓前に手を合わせます。
10年前のあの「冬彦ちゃん」の時も、常に小津映画の演技をお手本にしておりました。
日常の出来事を、ただデフォルメしてみたのです。
★「秋刀魚の味」で宇津井健さん、財前直見さん、余貴美子さんと。
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奇しくも、小津監督の命日12月12日をはさんで「秋刀魚の味」の撮影が続いております。
来年は生誕100周年。
今一度、初心に帰れ……という啓示と受けとめております。
ご縁話をもうひとつ。
「秋日和」「秋刀魚の味」に出演なさっていた、小津監督には息子のようにかわいがられていた三上真一郎さんが、今回出演なさいます。
当時、大学生役だった三上さん、今回は宇津井健さんらと同級生の役。
同窓会のシーンでは先生役の植木等さんらとさぞ楽しい演技をご披露されることでしょう。
ところで、三上さん、僕と同郷の俳優さんなんです。
松江に対して、想い入れの強い僕。
益々、身が引き締まります。